2026年5月、東京。
全日音研(全日本音楽教育研究会)の前事務局長で、長く音楽教育を牽引してこられた、そして今も揺るぎないリーダーとして活躍されている 菊本和仁先生にお会いする機会をいただきました。
僕は、いま2026年10月29日の全日音研奈良大会レセプションへ向けて「Journey with Fire 〜音楽教育の聖火リレー〜」というプロジェクトを進めています。その想いを共有させていただきたくて、今回の東京滞在のなかで、ぜひ一度ご挨拶を、と思っていました。
先生お気に入りのお店のカウンターで
待ち合わせの場所は、菊本先生がずっと通っておられるという、日本料理のお店でした。
カウンターに並んで腰を下ろした瞬間、僕は胸が熱くなりました。ご自身のお気に入りのお店に、わざわざ僕のような後輩を呼んでくださった。 そのことの重みが、料理が運ばれてくる前から、しんと伝わってきたのです。
お料理はもちろん、本当に美味しかった。
でもそれ以上に、先生がご自分の大切な場所へ僕を招き入れてくださったことが、何より嬉しい時間でした。
校長講話
今回、お会いするにあたって、菊本先生が日本音楽高等学校の校長を務めておられた時代に発信されてきた 「校長講話」の文章 を読ませていただきました。
朝礼で生徒たちに向けて、5年間にわたって語り続けてこられた言葉の数々。
「あ・じ・み・こ・し」
あいさつ・時間・身だしなみ・言葉遣い・姿勢
「練習は、自分の限界値を上げるためにある」
「成長の階段は、必ずしも右肩上がりとは限らない。らせん状の階段もある」
「誰かを感動させるためには、まず自分が何よりも感動していなければならない」
「きつい道を選べば、学ぶことがある」
どの言葉も、まっすぐで、温かくて、若い表現者たちへの深い愛情が滲んでいました。読みながら、僕自身がたくさんのことを教えていただいていました。
校長講話を読み込むことで、先生のことをたくさん知ることができました。これまで僕にとって菊本先生は、たった一度の懇親会で同じテーブルにご一緒させていただいただけの、遠い大先輩でした。
しかし、お会いするにあたって、先生のことをよりたくさん知ることができ、今日このような素晴らしい“出会い直し” ができたこと。それを、心から嬉しく思っています。
音楽の教科が、なくなるかもしれなかった頃のこと
お話を伺っていて、僕は大きな衝撃を受けました。
──いまから20年ほど前、中学校から音楽という教科そのものがなくなってしまうかもしれない、という時期があったのだそうです。
その時、菊本先生をはじめとする先生方が、先頭に立って、その流れを押しとどめてくださった。
僕は、その事実を知らないまま、小中学校の授業にむけて新曲を書いたり、スクールコンサートで全国を回ったりしてきました。
けれど、その活動ができているのは、20年前に音楽教育の灯を守ってくれた先輩方がいてくださったからだったのです。
──知らなかった。
そして、その世代の方が、いま僕の目の前で、お酒を傾けながら静かに語ってくださっている。本当に、ありがたい時間でした。
「トロイメ」── 先生ご自身の声
菊本先生は、音楽大学の声楽科ご出身。ドイツリートをご専門に勉強してこられた、声楽家でもあります。
歌っておられる先生の声──。
豊かで、深くて、まっすぐで。本当に素敵な声でした。
素晴らしい教育者でもありながら、プロの音楽家としてずっと、音楽そのものを追求しておられる。知性と芸術が、ひとりの人の中で美しく融合している姿 に、僕は静かに圧倒されました。
「歌は、人生をかけて磨き続けるものなんだ」──そう改めて教えていただいた気がします。
奈良大会まで、あと5ヶ月
10月29日の全日音研奈良大会レセプションまで、もう5ヶ月しかありません。
この5ヶ月を、自分にしかできないやり方で、丁寧に、誠実に、けれども大胆に過ごしていきたい。キャンピングカーで全国の音楽の先生方を訪ねながら、「ゆめ」と「うた」を集めて、奈良で大きな火に灯す。
その物語を、菊本先生のような大先輩にきちんと届けながら、進んでいきたいと思いました。
ご縁を、これから
別れぎわ、写真を一枚、一緒に撮らせていただきました。僕は静かに思いました。
今日のこの出会いは、Journey with Fire の物語の、大切な一ページになる。
このご縁を、これから大事に育てていきます。
菊本先生、本当にありがとうございました。


弓削田健介(ゆげたけんすけ)







