合唱指導室歌声の外側にあるもの
フルティ先生
ここは フルティ&ゆげちゃんの合唱指導室。 音楽指導家 古川としこ(フルティ)先生——福岡県・佐賀県の中学校で35年、音楽室から子どもたちを見てきた人の指導術を、 作曲家 弓削田健介(ゆげちゃん)との掛け合いでまとめています。 出典はすべて共著『HAPPY MUSIC』(音楽之友社・第10版)と月刊『教育音楽』の2年間の連載。 はじめての方はトップから
BEYOND / 7つのポイントに入らないもの

歌声の外側に
あるもの

おしりぼりぼりは「歌声のどこを聴くか」でした。
でも音楽室で起きていることは、それだけではありません。
よい歌声は、個人の技だけでは生まれない。

「音楽には人をつなぐ力もあるからね。子どもと子ども、子どもと大人、大人と大人── 『HAPPY MUSIC』p65
フルティ先生
6

6つの軸SIX AXES

見取りOBSERVATION / 授業は、扉の前から始まっている

フルティ先生

「音楽室ってねえ、入って来ただけでそのクラスに何があったか、すぐわかるんよ。 たとえば前の時間に先生に説教されたとか、相当座学が長かったんだなあとか」

音楽はナマモノだから。音楽室に来た子どもの雰囲気で導入は変わるんよ」

『教育音楽 中学・高校版』2017年6月号「音楽室の秘密に迫る」

その日に応じて、こう変える

  • 座学が続いた後のクラス → 動きから入る
  • 質問攻めして発散させてから、今日の題材へつなげる
  • 集中力がないとき → クイズ。音楽室の作曲家の写真で「これ誰?」
  • 特に変わったことがなければ、いつもの「こんにちは発声」から

フルティ先生の言葉

  • 「その歌声で見えてくることもあるから、そこから題材の導入を変えてるよ」
  • 「でも同じ入り方は絶対ないね
  • 「音楽室って、生徒が『今の自分』を表現していい場所なのよ」
  • 「気になる生徒がいたら『大丈夫?』『いつでも話を聞くよ』と声がけできるから、 放課後は相談室になったりもする
音楽室の鍵について

「今は備品管理上、鍵をかけているけれど、心には鍵をかけられないように、 本当は音楽室も鍵をかけたくないよね

これを聞いたゆげちゃん「僕は、あの開かれた音楽室に夢の種をもらったのかもしれません。あのときは気づいてなかったけど」

みんなの設計ROLES / 歌い手だけを対象にしない

伴奏者・指揮者

  • 三連符のビートボックスを流しながら、シャッフルの取り方を先に指導する
  • 全員で指揮者の真似をすると、同じノリで歌えるようになる
  • テンポ・呼吸・繰り返し・括弧・転調は、練習の早い段階で共有する
  • 指揮者を立てず、ダンスの得意な子を前列に置く選択もある(活躍の場になり、士気も上がる)

場と役割

  • 練習室・音楽室・音楽準備室をローテーションしながら音取り
  • パートごとに学年リーダーを決め、自分たちで歌声を作る楽しさを味わわせる
  • 50分のうち最初の20分は4教室でパート練習 → 体育館で全体練習
  • その時、学年全員の先生が一緒に入って歌う
  • 体育館での仕上げには担任の先生方にも集まっていただき、助言をもらう
専門家を呼ぶ

「こういうときは、その道のプロに頼むのよ!」「餅は餅屋! 専門家に任せることは大切よ!」
「仲間たちでつくるものも素敵だけど、そこに専門家が加わることで 素晴らしい化学反応が起こることを子どもたちも体感したんじゃないかな?」

『教育音楽 中学・高校版』2017年11月号。ゲストティーチャーの話

道のりTHE LONG RUN / 3年間で積む

年間35時間という現実から

「中学校では音楽の授業は年間35時間しかありませんので、表現(創作)、鑑賞の活動を深めることは なかなかできません。学習指導要領に書かれている内容から、 一人の音楽科教師が3年間で音楽の能力を引き出していくという考え方が大切です」

『HAPPY MUSIC』p11
だから、卒業式

「私が1年で一番大切にしているのが、卒業式の歌なのよ」
「中学校に入学してきて、3年間の総決算だもの。3年間で何を学んできたのか。 どんな音楽を表現できるのかは卒業式でわかるのよ。音楽の授業は1年で35時間。 3年で約100時間。そのまとめが卒業式なのよ

『HAPPY MUSIC』p64。ゆげちゃん「えっ。合唱コンクールじゃないんですね」
そして「マジック」の正体

マジックは、毎日は使えないのよ。大事なのはいつもの練習。学校では授業。
「大丈夫大丈夫。私は本番は何もしないから。おるだけ〜

『HAPPY MUSIC』p48

本物に会うGO AND FEEL / 借金してでも

なぜ行くのか

「文化は社会の流れで変わっていくのかもね。音楽の本質は変わらないけどね。でも、 これも行かなきゃわからないでしょう。自分で感じないと、自分の言葉として 子どもたちに話せないじゃない。だから、教師を続けている間は行き続けますよ

『教育音楽 中学・高校版』2017年7月号「借金してでも本物に出会う旅に出よう!」

フルティ先生の教材研究

  • 作曲家・演奏家・指揮者のお墓参り(カラヤン、バッハ、ウィーン中央墓地)
  • 音楽会、地元の大学の図書館で原書を見る
  • 「すると、楽譜の中から音楽が聞こえてくるのよ。これもまた充電ね」
  • 教材のDVDは自分で用意する(自腹)。「教材を選ぶ時間もワクワクする時間なのよ」

これが、おしりぼりぼり7番目とつながる

  • 「私は作曲家に会いに行ったり、旅をして音楽の生まれた場所に行ったりするね。 まず指導者自身が感じていないと、子どもには伝わらないから
  • フルティ先生とゆげちゃんが出会ったのも、これが理由でした
  • 「旅の目的は違うけど、音楽を知るためには旅はかかせないね

比べて聴くCOMPARE / ひとつの模範に寄せない

3つを聴き比べる

  • 自分たちと同じくらいのレベルの演奏
  • プロの演奏
  • 授業で歌った自分たちの録音

やり方

  • 同じ箇所を聴く
  • 違いを言葉にする
  • 次に試す一手を決める
  • ボーカロイドや楽器演奏との比較鑑賞も
鑑賞から、身体へ

ボレロの授業でバレエ(熊川哲也)を見せたときの観察。
「これを見たあと、男子はまず、イスを使って振り付けをまねし出す
「女子は、手先指先の動きとかまねしたり、美しい所作をまねしようとする」
「やってみると難しさに気づいて、熊川哲也がしばらくヒーローに。 そしていつの間にか《ボレロ》が身近なものになっていくものよ

『教育音楽 中学・高校版』2018年2月号。※教材は市販のものを探して使い、著作権を守る

学校をつくるTHE SCHOOL / 歌声で、学校が変わる

卒業生が何を覚えているかで、その学校が読める

「学年や学校が落ち着いてまとまっていると、歌声はもちろん変わるけど、 卒業式に向けた取り組みが深まるのよね」
「(合唱コンクールを覚えている学校は)学級単位でまとまりたいと思う雰囲気があったね。 だから一つになりやすい、合唱コンクールの思いが強くなるのよ」

『HAPPY MUSIC』p65
卒業式をつくる、その前に

「卒業式に向けて、まず、教師集団が同じ方向を向くことが大事なの。 音楽以外の情緒面や、集団のまとまりの価値を高めていきながら、巣立っていく子どもたちの これからの生きる力になるほどの式典にすることができたらいいよね」

『HAPPY MUSIC』p65

校歌指導は、すべての始まり ── 三つのサプライズ

  • 赴任したばかりの先生が、なぜか自分たちの校歌を歌える
  • 生徒たちも知らない校歌の意味や、学校にまつわる歴史を語る
  • それを高らかに歌って聴かせる

「この校歌指導一つで、これから先の音楽の授業への生徒たちの態度が変わってくる」
「『この先生なんかすごいな、なんかおもしろいな』と思ってもらえたら生徒の心はわしづかみよ!
── そのための調べ学習=①学校要覧を熟読すべし ②公民館をめぐり地域の方とお話しすべし ③これまでの文化祭や合唱祭のプログラムを見るべし(『教育音楽』2017年5月号)

そして、愛唱歌

学校で全生徒が歌うのは「校歌」です。
しかし、その校歌を歌えない生徒もいます。理由はさまざまです。

「私も長いこと学校に勤めていますが、全校生徒が一緒に歌えない時間をもつのが 気になっていました。そこで、本校では創立20周年の節目の年に、 生徒も職員も保護者もみんなで歌える歌「愛唱歌」をつくりました。 本校の関係者だけでなく、誰もが歌えるように学校名は入っていません。

つくり方は、当時の3年生に「大切にしたい言葉」「後輩に受け継いでもらいたい思い」を 書き出してもらい、それを作曲家がまとめる形でした。
生徒たちは、自分たちの思いが歌になったことに感激していたそうです。

「毎年入学式で在校生が合唱しています。新1年生は大変感動しています。 最初の授業で楽譜を配るとすぐに口ずさんでいます。

「みんなが歌える『愛唱歌』には、そこに集う人をつなぐ素晴らしい効果があります。

『教育音楽 中学・高校版』2018年10月号「みんなが歌える愛唱歌をつくろう!」
※学校の教育テーマに沿った既存の合唱曲を歌い続ける形もあります (例:合唱組曲《筑後川》に寄せて学年テーマを「みなかみ」「銀の魚」「河口」に)

保護者と地域と、一緒に歌う

「学校施設の共有というだけにとどまらず、文化の共有もできるのが コミュニティ・スクールの魅力です。また、 子どもたちへ親や大人の思いを伝えるメッセンジャーとしての役割ももっています。」

「毎年文化祭で、『次の曲は○○です。みんなのお父さん、お母さんの思いです。 聴いてください』とMCを入れた後に演奏すると、会場の子どもたちに浸透しているのを感じます。 歌声で愛を伝えているのです。

『地域で育てる』というコミュニティ・スクールには愛があると思います。

『教育音楽 中学・高校版』2018年8月号。教師と保護者のコーラスサークルは、 ゆげちゃんの曲を文化祭で歌ったことがきっかけで生まれました
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