合唱指導室動詞で言う
フルティ先生
ここは フルティ&ゆげちゃんの合唱指導室。 音楽指導家 古川としこ(フルティ)先生——福岡県・佐賀県の中学校で35年、音楽室から子どもたちを見てきた人の指導術を、 作曲家 弓削田健介(ゆげちゃん)との掛け合いでまとめています。 出典はすべて共著『HAPPY MUSIC』(音楽之友社・第10版)と月刊『教育音楽』の2年間の連載。 はじめての方はトップから
PRINCIPLE / 7つ全部を貫く原則

動詞で言う
「もっと美しく」は、伝わらない

「気持ちを込めて」「もっと響かせて」「丁寧に」——
伝わらないのは、子どもの理解力の問題ではありません。言い方の問題です。

「私たち音楽教師は、音楽をどのように表現するのかを、音楽用語のように形容詞的な言葉で 説明しますが、ここはあえて役者の台詞またはト書きみたいに、感情を生み出す動詞を 使って歌わせることがポイントです。より具体的な動詞を使っていくのです。」 ── 『教育音楽 中学・高校版』2019年2月号(連載第19回)
フルティ先生

なぜ形容詞は届かないかADJECTIVE / 評価の言葉になってしまう

形容詞で言うと、こうなる

  • 「もっと美しく」→ 何をすればいいか分からない
  • 「気持ちを込めて」→ 込めているつもりなのに否定された気になる
  • 「元気よく」→ 声を張り上げて、音程が狭くなる
  • 「笑顔で歌いなさい」→ 怒られて笑顔になるのは不自然

動詞で言うと、こうなる

  • 「話しかけるように歌う」→ すぐできる
  • 「〇〇先輩を思い浮かべる」→ 声の向きが変わる
  • 「全員で一歩前に出る」→ それだけで伝わる
  • 「となりの人と顔を見合わせる」→ 自然に笑顔になる
ゆげちゃんの気づき

「よく、『笑顔で歌いなさい』って怒ってる先生を見かけるんですが、 怒られて笑顔になるのは不自然だなぁと思うんです」

『HAPPY MUSIC』p48
TRANSLATION

そのまま使える言い換え表

左を言いたくなったら、右に置き換えてみてください。

つい言ってしまう(形容詞)
どこの話か
動詞に置き換える
もっと響かせて
り リリース
遠くを見つめて、円を描くように歌おう
音程に気をつけて
ぼ 母音
響きを「前へ上へ」運ぶ。手を前上方へ伸ばしながら
言葉をはっきり
し 子音
Kの前に小さな「っ」を入れる。唇を弾く
走らないで
り リズム
歌詞を外して、リズムだけ手拍子で読む
気持ちを込めて
り リリック
部活の〇〇先輩に話しかけるように歌う
元気よく・笑顔で
ぼ ボディー
前奏でとなりの人と顔を見合わせてスイングする
丸い響きで
り リリース
わたあめのようにまあるい響きをつくる
なめらかにつないで
り リズム
ドミノ倒しみたいにリレーして、最後はビシッとそろえる
2番は変化をつけて
り リリック
目を閉じて情景を想像する。テンポは変えない
歌詞をよく味わって
り リリック
ひらがなを漢字に直して、詩として読み合う

おしりぼりぼりは、全部動詞で書かれているTHE PROOF

これは偶然ではありません。7つのポイントの説明を並べると、動詞が並びます。

お 音程
分割する
途中の音を歌わせて、あとから抜く
し 子音
入れる
小さな「っ」を入れる。息を前歯に当てる。唇を弾く
り リズム
取り出す
タイを外す。手拍子で読む。テンポを落とす
ぼ 母音
運ぶ
前へ上へ響かせる。母音だけでつなぐ
り リリース
飛ばす
遠くを見つめる。円を描く。手で放物線を示す
ぼ ボディー
動かす
体を揺らす。一歩前に出る。顔を見合わせる
り リリック
問いかける
漢字に直す。詩として読み合う。自分に問いかける

抽象は、比喩に変えるMETAPHOR / 体で真似できる形に

フルティ先生は、抽象語で終わらせません。必ず子どもが真似できるイメージに置き換えます。

わたあめ
リズム
ドミノ倒しみたいに、リレーしていこう。最後はビシッとそろえよう!」
わたあめ
響き
わたあめのようにまあるい響きのハーモニーをつくろう」
わたあめ
身体
ピエロが踊っているみたいに体を揺らしながら歌おう」
はじまりの歌
身体
「手のひらを見つめると、見えないバトンを渡されていることに気づくはず」
MUSIC
響き
遠くを見つめて円を描くように歌おう」
未来が生まれてる
言葉かけ
自分が魔法使いになって世界中の人に魔法をかけるように楽しく歌おう!」
ゆげちゃんへの、いちばん有名な比喩

「いやいや、ゆげちゃんは旅してナンボやろ! 旅をしないゆげちゃんなんて、黒鍵のないピアノみたいなものよ!

『教育音楽 中学・高校版』2017年10月号

言葉かけは、こんな感じREAL WORDS / 教室で言うセリフ、そのまま

「授業に引きつける言葉がけをする」——チェックリストにそう書いてあっても、 何と言えばいいかは書いていません。だから、セリフそのものを載せます。

未来が生まれてる / 導入

「音楽は みんなを幸せにしてきたんだよ。そんな気持ちで歌ってみよう。」
「未来を見つめる一人ひとりに まだ誰にも伝えてない大切な夢があるね。それが宝物だよ。」
「自分が魔法使いになって 世界中の人に魔法をかけるように 楽しく歌おう!」

『HAPPY MUSIC』p36
旅立つ君へ / 導入

「部活の〇〇先輩に向けて話しかけるように」
「同じ地域の幼なじみの先輩と過ごした時間を思い浮かべながら歌ってごらん」

『HAPPY MUSIC』p50 /『教育音楽』2019年2月号
越えてゆけ / 導入から仕上げまで、一本の物語に

〔導入〕人はみんな生きていくときに越えなければいけない壁にであうね。
次のテストでは〇〇点以上にしたい!/話したことのない人と話すために声をかけたい。でも勇気がない。/ 自分のやりたいことをお母さんに言いたい。反対されるかもしれない…でも言いたい。

〔仕上げ〕全部今の自分から一段階段をのぼるような壁みたいなものです。 人は一つ一つの壁を乗り越えて大人になっていくのです。
さぁあなたの壁はどんな壁? さぁこの歌を歌って乗り越えよう!

『HAPPY MUSIC』p57

強弱記号が書かれていない楽譜WHY NO DYNAMICS

弓削田健介の曲には、強弱・発想記号が書かれていないものがあります。 忘れているのではなく、書かないことを選んでいます。

作曲者から

「この曲には強弱記号等が書かれていません。それは、 先生方や子どもたちに自分たちの歌として歌ってほしいからです。

『教育音楽 中学・高校版』2019年2月号
指導者から

「だから表現記号とか強弱記号も書いてないんだね。指導者としては、 歌詞のメッセージを届けるお手伝いができたらいいなと思うね」

『HAPPY MUSIC』p22(フルティ先生)

だから、こう進める

  • 歌詞のまとまりを確認する
  • 複数の強弱・音色で歌い比べる
  • 伝わり方を聴き合う
  • 「卒業式でどのような気持ちで歌いたいのか」を問いかける (例:先輩との恋を語るように?)
  • 思い出を語り合う学級活動と連携させる
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