こんにちは。合唱作曲家の弓削田健介です。
今回は「名前」をテーマにした歌と、歌をもとにして作られた「絵本」について書いていきたいと思います。
合唱曲「しあわせになあれ」
しあわせになあれ(歌詞)
目を閉じて繰り返す あなたがくれた名前
懐かしい声がする 愛してくれた人たち
光あふれた朝に 願いを込めて
あなたが授けてくれた 愛の唄が聴こえる
「しあわせになあれ」
僕の名前から 消えないメロディ
(2番)
心通った友の 笑顔が浮かぶ
名前を呼ばれる度に 僕は僕に出会った
「しあわせになあれ」
優しい祈りに 守られながら
「しあわせになあれ」
僕の名前から 消えない祈り
作詞・作曲:弓削田健介
作曲物語
旅の途中、時間があるときは、路上に出かけて、歌うようにしています。夜の世界でギターを片手に歌っていると、色んな人との出会いがありますその偶然の出会いが、時に大きな気付きを与えてくれることがあります。
歌っている時に、話しかけてくるのは、酔っぱらいのおじさんたちです。しかも、ワケありの場合が多いです。「さっき会社辞めてきちゃった。」とか「さっき奥さんに逃げられた。」とか。座っている僕のことを見下ろしながら「でも、お前を見てたら、俺の人生のほうが、まだましな気がしてきたよ。」って言いながら元気になったりします。そして「俺の人生の新しい門出に、大好きな長渕剛の『乾杯』を歌ってくれや。」と、リクエスト大会が始まります。一緒に歌ったりしながら30分位が経つと、やっと名前を聞いてくれます。
おじさん「お前、名前なんていうんや?どっから来たんだ?」
僕「弓削田健介と申します~。九州から参りました。」
おじさん「ゆげた?なんだそりゃ、残念ながら売れない名前だな!」
僕「ガビーン。でも、そうですよね~。漢字も読みにくいし。」
おじさん「でもね、健介っていう名前は、大事にしろよ。父ちゃんと母ちゃんの祈りが込められているからな。」
おじさんが、まじめな話をはじめたと思ったら、突然詩の朗読が、はじまりました。
名前は祈り
名前はその人のためだけに用意された
美しい祈り
若き日の父母が 子に込めた願い
幼き頃毎日毎日 美しい祈りを授かった
祈りはその人の体の一部となり
その人となった
だから 心を込めて呼びかけたい
美しい祈りを
(詩:毛里 武)
・・・僕はこの詩が、いっぺんで大好きになりました。さっきまでの酔っ払いのおじさんが、天使のように見えました。感動している僕を横目に、おじさんは道端に寝転がっていましたが・・・
それから僕は、スクールコンサートへ行くたびに、路上で教えてもらった「名前は祈り」の詩を紹介させていただきました。いつか自分も、「名前」をテーマにした歌を作りたいと思いながら…
ある日、不思議なことが起こりました。ピアノに向かって作曲をしていると、静かなメロディーが浮かび、無意識に「目を閉じて~繰り返す~あなたがくれた名前~」と言葉が続きました。その歌詞の通りに、目を閉じて両親がくれた名前を呼んでみました。「けんすけ~、けんすけ~」って。最初は自分の声ですが、何度も呼んでいるうちに、いろんな人の声で聴こえてきました。ひょうきん者のお父さんの声、厳しくて優しいお母さんの声、小学校の頃の友達が「けんちゃーん」と呼ぶ声。これまで出会って来た、たくさんの人たちの顔が浮かびました。「いろんな人が呼んでくれた名前なんだなぁ。」と思いながらその声を聴いていると、涙が溢れてきました。
この「しあわせになあれ」という曲は、その時に感じた気持ちを綴った、とてもシンプルな曲です。自分の名前の由来を調べる授業や、小学校の2分の1成人式、中学校の立志式など、子どもたちの節目の機会に、歌っていただけたら嬉しいです。
指導にあたって
親が子どもに名前をつけるとき願うことはただ一つ。幸せになりますように…。名前に込められた願いを子どもたちにやさしいメロディで教えてくれる歌です。何度も繰り返される「しあわせになあれ」のフレーズを歌うたびに子どもたちは愛されていることを実感するはずです。繰り返されるたびに思いが強くなるような強弱の工夫があれば、より感動的な演奏になるでしょう。
(山本由美)
振り付け動画
収録楽譜
絵本「しあわせになあれ」
出版社より
「名前」は両親からの最初の贈り物。「しあわせになあれ」という真摯な祈りがこめられています。そんな大切な「名前」をテーマにした合唱曲「しあわせになあれ」の詩に絵本作家の松成真理子さんが叙情的な絵をつけて絵本ができました。名前を与えられたこどもが、だんだんに成長しやがて独り立ちしていくまでの姿が描かれています。沢山の子ども達が手を取り合って「しあわせになあれ」と歌っているシーンは大変感動的です。合唱曲「しあわせになあれ」は、全国の学校現場で歌われており、待望の出版となりました。
(瑞雲舎)